群青

ultramarine.

名犬クロ 02/10/23

私には懇意にしている犬がいる。彼は某喫茶店の裏で暮らしていて名前をクロという。茶店のマスターの名前は知らないので、クロのほうがより近しい存在だ。まだ一歳だがレトリバーの血が1/4入っていて体は大きい。クロははよく躾けられていて、決して吠えたり飛びついてきたりはしない。犬は飼い主に似るというが、飼い主のマスターにも吠えられたり飛びつかれたりしたことがないので、あながち迷信とも言えまい。

ある男がセラピストの所へやってきた。
男:「僕、もしかしたら犬のような気がするんですが・・・」
医者:「ほう、いつからそう思うようになったんですか?」
男:「仔犬のころからです」

私はクロによく話しかけるのだが、シャイなクロは言葉を返すことはない。すこし小首をかしげ、その黒い瞳をそらさずに、じっと我慢強く聞いている。しばらくは「お手」にも無言で前足を上げたりして相手をしてくれるのだが、私がなにも食べ物を持っていないと悟ると、すごすごと寝床へ引き上げてゆく。思い通りにいかない世の中に、逆上したり悲しんだりしない強い精神は見習いたいところだ。

・・・その後・・・
男:「先生!僕、なんだか回復にむかっているようなんです」
医者:「それはよかったですね。どうしました?」
男:「ええ、鼻がぬれているのがわかるんですよ」

なかなかウィットに富んだ小話である。今度クロに聞かせてみよう。彼ならばきっと最後まで聞いてくれる。そして「やはり、あなたの場合は寡黙が一番ではないですか?」クロの背中は、そう雄弁に語るだろう。

 

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